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改修工事は延長へ

RRP小説 第2話

大規模修繕工事は予定終了日を迎えた

 2018年10月の最初の火曜日の朝は、猛暑もひと段落し少し過ごしやすい晴れの日だった。

修繕工事延期が決まってから10月初めての定例会議には、現場代理人の赤塚さんはいなかった。

以前に何度か定例会議に同席していた木下さんだけが定例会議開始ギリギリにやってきた。

 説明しておくとRRPの現場事務所は、修繕工事が始まる前にリノベ工事のために退去をお願いして空室となった部屋を使用していた。この空室には、株式会社後藤が用意した長机やプリンター、冷蔵庫、ロッカーからホワイトボードまで用意され、まさしく工事現場の事務所の雰囲気を醸し出している。

「え、ちょっとお待ちください。。プリンターの調子がおかしくて、、」と。木下さんはパソコンと格闘していた。

定例会議は、職人さんの朝の休憩時間がひと段落する10:30からスタートすることになっていた。

会議開始時刻から、10分たっても、15分たっても、それまでと同じようにパソコンに向かって木下さんがウーン、ウーン言っている。

今日の会議には複数業種の職人さんも同席してもらっている。早く会議を終えて自分の仕事を始めたくてウズウズしている職人さん達が5、6人、私と同様にイライラしながら無言で机を見つめていた。

「あのーちょっといいですか! パソコンでトラブルが出て、30分以上やって解決しないんだったら、早く他の手段を当たらないとダメでしょ!。もうこれ以上設定に時間とるのやめてくれる!」

怒りがこみ上げてきて、木下さんにそういった時、時計の針はすでに11:15を回っていた。

私は口頭で会議を進めれば良いと思ったのだが、建築士の青山さんがどうしてもプリントベースで会議を進めたいというので、しかたなく別室の自分のプリンターで打ちだそうと決めた。

「こちらでプリントするので、データーをください!!」と木下さんに強い口調で言った。

「あ、 は い。データですか??」

別のプリンターで資料を打ち出そうとしていることも、ピンと来ていないようだ。。。。

 

 そもそも初めての会議進行役で、自分のパソコンからはじめてのプリンターと接続するのであれば、遅くとも当日朝早く事前準備するとか、もしくは前日に接続テストするとか、難しければどこかでプリントアウトして持参するのが普通だ。

この緊張感のなさにとにかく怒りがこみ上げる。

さらに納得できないのは、前代理人の赤塚さんが引き継ぎも挨拶もなしに来なくなったことだ。

私は怒りを抑えながら、別室のプリンターで人数分の会議議事録をプリントアウトして 現場事務所に戻った。人数分プリントを配り終えると木下さんがバツが悪そうに切り出した。

「えー、長らくお待たせいたしました、、それでは会議を始めたいと思います」

説明しておくとRRP定例会議の進行は、

前回冒頭に前回の会議内容をおさらいした後、今週の予定を報告する形式となっていた。

ひととおり前回の内容を木下さんが読み上げたあと、今週の予定の前に、前回確認事項だった案件について質問をした。

「あのー、前回検討事項だった、A の件その後確認されましたか?」と私。

「えー、その件は、、、あ、確認します」

「確認、ちゃんと引き継ぎされてるんですよね??」と私。

「あ、はい、しております。。ただこの件に関しましては、、えー赤塚に確認いたします。。」

こんな調子で会議は要領を得ないまま時間だけが過ぎていった。

 この頃はとにかく毎日怒りの気持ちばかりであったのだが、要するに工事を取り仕切るべき現場代理人に主体性がなく他人事で仕事にあたっていることや、会社としての体制がまったく不十分であることに対して憤っていたのだと思う。今になって冷静に考えてみれば、一般的に修繕工事というのは、決まりきったメニューにしたがって決まった順序で施工していく工事なのだろう。

少し極端な言い方をすれば、何度か現場を経験すればあとは前回と同じような段取りで、いつもと同じように仕事をこなせばなんとかなるような仕事の進め方なのだ。

今回は、RRPが追加工事という方法をとったことで、現場代理人がイレギュラーな仕事に対応しなければならなくなったことで混乱していたのだと思う。

 さて、工事延長となった10月初旬頃、我々が抱えていた最大の問題はサッシの納期だった。

老朽化にともないほぼ全室交換することになった窓サッシは、発注してから製作となるため納期には数ヶ月必要と言われていた。そのため、建築士の金岡さんが中心となり7月中旬頃から会議の主要議題として話合ってきた。しかしここにきて、サッシの納期が10月中旬と言われていたのだった。

なぜサッシの納期が問題かというと、一部のサッシ交換工事が高所のため、足場がないと取替工事をすることができないのだ。サッシの納期が遅れれば遅れるほど足場の解体が遅くなってしまう状況に陥っていた。

いくら話し合ってもサッシの件は、なんの進展も見られない。

ここはしかたなくいったん様子見とした。

「とにかくサッシの納期を逐次確認してください。少しでも早められないか当たってください。

足場解体のタイミングをギリギリまで検討していきましょう」

そういって今日の会議をとりあえず終了した。

 

お昼ごはんをはさんで、青山さんと私は打ち合わせを続けた。

「新しい現場代理人の木下さんにはもっときちんとしてもらいましょう」

「(株)後藤からきちんとした引き継ぎもないわけですし、今でも現場代理人は赤塚さんだと思います、次回以降出席してもらうよう依頼します」

と青山さんが鼻息荒く言った。

「はい、ぜひそのように依頼を願いします。」と同意した。

 工事は粛々と進んで、あっという間に1週間が経過した。

 10月2週目の火曜の朝、今回の定例会議にも前代理人の赤塚さんの姿はなかった。

たったひとつ今回の改善点といえば、会議資料が開始前にプリントアウトされていたことだ。

「あのーそれで、追加分の見積はまとまりましたか?」

「え、申し訳ありません、至急対応しておりまして、なんとか今週中には。。」

「。。。。。」

もうなんと言っていいのかわからない。。こんなことってあるんだろうか。。。。

もうそれから

会議がどれくらい進行してどれくらい時間が経過したのだろう。

あまり覚えていない。

「え、それでサッシの見通しがギリギリなのですが、足場は今月中旬には解体予定です」

と木下さんが言った。

「サッシ納期決定していないのに足場解体しちゃうんですか??」

「あ、はい。。 なんとか足場なしでも 工事できると職人が言っているんで」

もう言葉にして言わなかったが、

(だったらとっくに足場解体すればよかったじゃん、なんなんだよ。。)と心の中で呟いた。

というのは、

この3ヶ月間建物はずっと足場シートで囲われており、住人の方々はろくに洗濯物を干せず、

かなりのご不便をおかけしている。プライバシーのこともあり、工事によっては朝からずっとカーテンを締め切りの日も少なくなかったのだ。

なのにまだ、なぜ工事終了予定日をすぎても足場が取れないのかきちんと説明もしていなかった。

「それじゃ、えと、まず足場が取れない理由といつ足場が取れるかを、至急住民さんに案内してください!」

「はい、わかりました」と木下さんは答えた。

結局

木下さんの言ったとおり10月中旬、サッシ交換が完了する前に足場は解体された。

 

足場がすっかりなくなってから、ずっと懸念していた高所部分のサッシ交換は職人さんの曲芸のような職人技で足場を使わずに作業が行われた。窓の手すりなどに立ち足だけでバランスをとりながら窓サッシを交換してしまった。

 

今思えば、なんであんなにサッシの納期と足場解体のことを喧々諤々話し合っていたんだろう。。。。

 

後日談であるが、

その翌週、嵐のようにトビさんたちがやって来て、お祭り騒ぎのような大きな声で怒り、笑い、叱り飛ばしながら2日間の間に、あっという間に足場を解体して去っていった。

まるで、あの無数の鉄の棒と、網のシートに覆われていた3ヶ月半が夢であったのではないか?

と思わせるような早業で。

 

会議を重ねる度に、あいかわらず木下さんには呆れることが多い。と同時に株式会社後藤への不信感もかなり高まってきていた。木下さんが新しい現場代理人となっという正式なアナウンスは株式会社後藤からはまったくなかった。

契約後、株式会社後藤の営業は透明人間のように我々の前から姿を消した。

[RRP小説 この作品はフィクションです]