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生みの苦しみから得たもの

RRPでの様々な経験が経験値に

RRP (Rikyu Renovation Plan) を終えて半年以上が経過した。いったいRRPとは何だったのか?

終了してある程度の時間が経過した今こそ、工事を振り返るタイミングであると思った。

 RRPは築50年近いマンションの改修工事であった。それはやりたいというものではなく、やらなくてはならないという種類のモノであった。

では「なぜ建て替えを選択しなかったのか」について振り返ってみたい。

 震災後、耐震に不安を残していた建物を建て替えすれば地震の不安は緩和されることは明白だった。ただひとつ捨てきれなかったことは、現在の建物の高さと、それを活かした屋上の存在であった。建築基準法改正前に建った建物の高さを建て替えでは実現できず、もし建て替えを実施すれば建物の高さが低くなることがわかっていた。また部屋数も少なくなる。そして何より新築にすることは、「面白くない」とただ直感的に感じたのだ。

建て替えをしなかった理由をひとつだけあげるとすれば、それは「面白くなさそうだから」だと思う。今になって冷静に思えば、そんな子供みたいな理由で人生を左右するような大きなお金を動かして良いのか、とも思う。しかしもうやってしまったことを、いろいろ考えても意味がない。

RRPは2年以上もの時間と想像を遥かに超えるお金を使って行ったプロジェクトだった。

この2年という期間は、最初は興味本位で楽しい気分であったものが、徐々に単なる仕事となっていくと同時に、気力も体力も疲弊していった2年であった。思う様に工事が進まず、約束したつもりが約束になっていなかったり、夏の強烈な暑さや冬の凍る様な寒さ、そして銀行と何度も繰り返す事務的なやりとり。多くの人が関わっていることもあって、ほとんど自分の思い通りにいくことのないつらい作業であったとも言える。

では、お金と時間を使ってプロジェクトを実施した意味はなかったのか?

それは即答で「意味はあった」と言える。

 

なんだかんだ建物はリニューアルをしたし、もうひとつ思っていなかったモノを手に入れていたのがその理由だ。

工事を通して私は経験を手に入れていた。

多くの時間を費やして問題意識を得、多額の身銭を切ってそれを自分ごととした。

他の誰でもない自分ごととして2年間工事に向き合った結果、私は施主目線、業者目線、設計者目線、住人目線での空間構築における様々な思惑や知識を身に付けたと感じている。

建築工事は専門分野ごとに様々な人々が介在する。

そしてそれぞれの人がそれぞれの目線で、言い換えればそれぞれの損得勘定で行動する。建築と不動産という大きな分け方では説明しきれない、もっと細かな損得勘定が存在するのだ。

知識としては専門家に勝てないとしても、広く浅くそれぞれの立場を体感していることは価値であると、最近になって気づいたのだ。

そして工事の成功、クオリティや満足感・達成感を左右するポイントはただひとつだと思う。

その答えは単純明快で、

「誰と組むか」だ。

それだけと言っても良いと思う。もしどこかのお施主さんが何かのプロジェクトを立ち上げるとした場合、とにかく全力をつくしてやるべきは 誰と組むかをとにかく考え抜くことだ。

もし検討するための知識がないのであれば、組もうと考えている業者さんのHPや実績を調べ抜くことだ。写真や動画だけでなく知り合いを通じての評判や現在進行中の現場などへも見学にいくと良い。

『神は細部に宿る』

ミース・ファン・デル・ローエも言っている様に、ほんとにわずかな、些細な部分をよく観察して判断をすると良いと思う。

業者さんは営業の時点が意識や労力のピークとなっている場合が多いので、契約するまでの応対でよし悪しを判断することは、ほぼ不可能だ。言葉では見抜けない部分を施工事例や、実際の現場の様子から判断すると良いと思う。ホームページがない、あっても更新されていない、現場が汚ない、職人さんに緊張感がない、などは言うまでもなく減点項目だ。

また業者を見積だけで判断してはいけない。

必要な金額はかならず必要なことを忘れてはならない。本来必要な金額を計上せずに安い見積で勝負するということはどういうことか?

それはおそらく工事の管理体制が甘くなるということだ。

工事は工事管理こそが命であると痛感する。現場を管理し納期をコントロールすることが、関係者全員にとって最も価値のあることだと私は思う。だからこそただ安い見積で誰と組むかを判断してはならない。お施主さんがやるべき仕事とは、業者選定に全力をつくすことのみと言ってよいと思う。

これは一例であるが、このような自分の中の明確なルールを構築できたのはRRPを経験したおかげであると思うのだ。

私はRRPを通して得たこの経験を、今後我々と同じ様な問題に直面している人達に価値提供していきたいと思う。

空間を作り出すというのは単なるデザインではない。そこに暮らす人々の生活、暮らしを豊に快適にすることが重要なのだ。あまり知識のない人がわからない、目に見えない部分。DIY可能や間取りデザインだけに判断を誤らないように、断熱性能や配管年齢などの重要性も今後何かの形で知識共有していきたい。